2004年世界医師会東京総会

WMA GENERAL ASSEMBLY TOKYO 2004

 

 

講演の抄録はWMA公式抄録集から転記した。

討論、会議の記載は聞き取りによるものであり、内容が極めて不確実・不完全なものであることをご留意いただきたい。

文責は小森 貴にある

世界医師会事務局より正式な会議録が公表されるまでの一時的な速報としてお読み下さい。

 

20041069

帝国ホテル、東京

 

10月6日(水)

900−理事会

915−医の倫理委員会

1400−社会科学委員会

1545−財務企画委員会

1645−資格審査委員会

 

10月7日(木)

学術集会

座長:James Appleyard WMA会長

 

テーマT「先端医療と医の倫理」

1・「先端医療と医の倫理」

  高久 史麿 日本医学会長

 

先端医療といわれる医療技術には臓器移植、生殖医療、遺伝子診断、遺伝子治療、再生医療等があるが、その中で、今回は遺伝子診断、再生医療に関連する生命倫理のわが国の現状を紹介する。

 

遺伝子診断は現在既に臨床的に幅広く行われている。遺伝子診断の特徴として少量のサンプルで正確に診断が出来る。症状が現れる前に診断が可能である、等の点が挙げられている。この中で後者の症状が発現する前に確実に診断が可能な事が様々な生命倫理の問題を提起している事は周知のごとくである。ハンチントン病と遺伝子診断された患者がその症状が現れる前に自殺を試みたり、精神病院に入院する割合が高い事などが報告されているのも重篤な遺伝性疾患の症状発現前診断が可能になった事の結果といえる。また欧米ではBRCA遺伝子陽性の女性が健康な乳房を切除する事実も問題になっている。

 

医療保険への加入に際して遺伝子診断を行う事に関しては、国民全員が公的な健康保険に加入しているわが国ではこの事が問題になった事はない。一方生命保険への加入に関しては、加盟団体として検討中との事であるが、未だ結論に至っていない。ヒトの遺伝子に関する基礎的な研究に関しては国のガイドラインが2001年に作られている。また遺伝子臨床検査の受託に関する倫理指針は2001年に社団法人日本衛生検査所協会によって作られ、更に医療機関が遺伝学的検査を行う際のガイドラインが日本遺伝カウンセリング学会等10学会によって2003年に作られている。臨床研究全般に関するガイドラインが2003年に厚生労働省から出されているが、このガイドラインは1964年に世界医師会で採択されたヘルシンキ宣言にのっとったものである。

 

再生医療の中で胚性幹細胞(ES細胞)に関しては、2001年にヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針が文部科学省によって作られ、既に幾つかの研究グループによって行われている。生殖クローニングについてはわが国では法律によって禁止されている。この法律を犯したものは5年以下の懲役。500万円以下の罰金を課せられる。また研究利用のためのクローン胚の作成については総合科学会議生命倫理調査会での2年半以上に及ぶ議論を経て漸くその実施のための体制の整備を進める事となった。

 

2・「先端医療と医療保険」

  桜井 秀也 日本医師会副会長

 

日本の医療保険制度は、その発端を80年以上以前に遡ることができる。

 

1961年、国民簡保険制度が確立し、一定のルールの下に、国民全員が、公的医療保険制度に加入することになった。

 

国民は、収入や年齢によって定められた「保険料」を「保険組合(保険者)」に支払って、「被保険者」になる。病気になった場合には、どこの医療機関でも自由に受診することができる。そして、必要な医療サービスが、現物給付として、国民全員に平等に提供されることが保証されている。

 

医療機関は、患者さん(被保険者)に提供した医療サービスの費用を「診療報酬」として「保険者」に請求する。請求することのできる「診療報酬」の内容は、「中央社会保険医療協議会(中医協)」という公の協議会によって決定される「診療報酬点数表」によって、診療行為別に一つひとつ詳しく定められている。

 

従って、新しい「先端医療」が開発された場合、それが「診療報酬点数表」に掲載されていないと、保険給付の対象とはならない。そこで、新しく開発された「先端医療」が保険に導入されるまでの間の対応策として、いわゆる「高度先進医療」という制度を導入している。いわゆる「高度先進医療」の制度では、患者に保険外の費用負担を求めることになる。どの「先端医療」を、いわゆる「高度先進医療」とするかは、「高度先進医療専門家会議」で検討した上で、「中央社会保険医療協議会」で決定する。そして、いわゆる「高度先進医療」が、安全で、有効であり、一般保険診療として認めて良いことが確認されれば、「診療報酬点数表」に掲載されて、保険給付の対象になる。

 

この制度に関して、現在問題点が指摘されている。1つは、新しい「先端医療」が開発されてから保険に導入されるまで時間がかかりすぎること、もう1つは「先端医療」次々と開発されてくると、それをすべて保険に導入するのは財政的に限度があるという意見である。

 

 

フロアからの発言

 

台湾:高度先進医療の保険適応は、手続きが12年に1回ということであれば、早く処理されないのではないか。高度先進医療を無効とする判定は誰がするのか。

桜井:手続きの簡素化、委員の増員による協議の高速化を図っているところだが、今後更に効率の良い検証こそ重要であると考えている。無効判定は中医協で行っている。

ベルギー:遺伝子診断では症候が無いうちに診断可能ということであるが、症状がないうちから診断することの倫理の是非が問題である。

カナダ:限られた医療資源の配分が問題である。高度先進医療に関わる問題について、保険会社はどのような判断をするのか。

桜井:日本では公的保険で全国民がカバーされており、保険会社の裁量ではない。

オーストラリア:高度先進医療や先端医療に関する費用の諸負担はどこが持つのか。アクセスが不公平になることはないのか。

高久:コストの大部分は国の負担である。物によっては企業から研究費がでるばあいもある。アクセスについては、日本では国民皆保険の観点から担保されている。

 

3・「医療技術の将来−医学教育と医療現場への影響」

  Henry Haddad 元カナダ医師会長

 

世界の多くの地域において、医療技術は医学教育と医療現場の両方に革命を起こしてきた。多くの人々はこの分野の進歩を比較的最近起こったもののように考えている。しかしながら、我々の理解しているところでは、医療技術はレントゲンが放射能の医療への適用を発見したときから、抗生物質の利用、そしてペースメーカーや人工弁等の埋込型医療機器に至るまで、何年にもわたって発展してきたものである。全般的には、医療技術が患者の健康と福祉に良い影響をもたらしてきたことに同意しない人は稀である。ほとんどの国の平均寿命は著しく伸び、新生児や妊婦の死亡率等の他の健康指標も改善している。

 

医療技術の「未来」は目前に迫っているかのようにも見える。かつてはサイエンス・フィクションの領域と思われていたことが現実となりつつある。遺伝子/ゲノム革命はもっとも幅広く議論された例かもしれない。ヒトゲノムの解明以降、この新たな知識の将来的応用については、科学分野の多数の出版物はもちろん、医学雑誌や一般雑誌でも予測されてきた。個人の遺伝子構造に基づいたデザイナードラッグの開発はまだ先のことなのだろうか。現在治療法のない病状に対する遺伝子治療は、その兆しが見えているのか、それとも予想される障壁を乗り越えられないのであろうか。幹細胞移植はどうであろうか。それは本当に、糖尿病、パーキンソン病、脊髄損傷の治療に役立つ、我々が探し求めてきた答えなのだろうか。

 

これらの問いは、医療従事者や患者に多大なる期待と楽観を抱かせがちであるが、同時にもっと困難な間題をも伴っている。誰がこれらの新技術を手に入れるのか。予測的な遺伝子検査は、治療法のない疾患を引き起こす可能性のある遺伝子をもつ人々を不利な立場に置くのではないだろうか。医学研究の対象となった人々は発見の恩恵を受けられるであろうか。革新的な実践医療と医学研究との間の境界線はどこか。医療技術の進歩により、ベッドサイドの医療におけるアートとサイエンスのバランスはさらにサイエンス寄りへと歪められていくのではないか。そしてこのことは未来の医師の教育と育成にどのような影響をもたらすであろうか。

 

我々がこれらすべての問いに答えられるまで、医療技術の未来は「よくて不確実」「悪ければ悩み多き」ものとなりそうである。

 

 

4・「先端技術と医の倫理−WHOの立場から」

  Steffen Groth  WHO基礎保健技術部長

 

世界保健機関(WHO)は、194847日にWHO憲章の発効をもって設立された国連の専門機開であり、すべての人々が最高レベルの健康を維持できるようにすることを目的としている。保健機会の平等がWHOの当初からの基本的目標であり、それは2000年に導入された「ミレニアム・ディベロップメント・ゴール」(2000年活動目標)によってさらに集約化されている。今日では、あらゆる保健活動の50%以上が技術に関連する内容になっている。WHOでは先端技術を含めた保健技術の発展を支援しながら、安全が検証されていることを前提として、それらの技術が国の保健システムとサービスに統合されるよう促進している。しかしながら、WHOは同時に、そうした保健技術はそれ自体で完結するべきものでなく、また経済が脆弱な国々による保健分野への技術投資は、その国民の基本的(保健)ニーズを満たす乏しい資源を彼らから奪うものであってはならないと考えている。WHO総会は、近年この分野においてゲノミクス、移植、ヒトの生殖に関わるクローニングなどに関する数多くの問題を個別に提起し、2003年には他の関連トピックスを考察するために「知的財産権、革新および公衆衛生に関する委員会」を組織したが、先端技術と医の倫理に関する問題についてはまだ深く論議されていない。現在のところ、先端技術の90%以上が10%以下の国々(先進国)で開発されており、医学研究全体の90%が世界人口の

10%以下にしか影響を及ぼさない問題を扱っている。WHOはそのバランスの是正を目的として、この分野におけるイニシアティブを促進している。

 

フロアからの発言

 

カナダ:WHOは遺伝子医療に関して慎重な態度だが、実際にこの適用を希望する患者に対する倫理は如何か。遺伝子医療に関する問題を除去できる可能性についてどう考えるか。

S.GrothAbnormal geneの除去に留めるべきであろう。いずれにせよこれらの運用、検証、管理などが公開され、議論される環境下でなければならない。

イギリス:先端的医療だけに問題があるのではない。中間的な医療技術であっても途上国にとっては大きな意味がある。このことについてのお考えは如何か。

S.Groth:途上国においての基礎的ニーズの調査が必要であり、限られた医療資源の分散は許されない。

高久:WHOの遺伝子治療に関する基本的な態度については全く賛成である。しかし、疾病の治療に限定すべきであり、公平の観点が重要である。世界では基本的な医療においても基本的な不平等があることを忘れてはならない。

日本:「リスク回避」の考え方を遺伝子医療に持ち込むことで解決の方策をとることは不可能であろうか。どれくらいのリスクがあれば遺伝子治療を禁止すべきなのだろうか。

S.Groth:難しい問題だが、一つ一つの場合について検証していくことが必要だ。しかし、リスクの大きさが小さいからといって無制限に認めることは危険である。

J.AppleyardDr.Grothの意見に賛成だ。

某国:生殖医療クローニングの禁止は勿論だが、治療のためのクローニングも禁止すべきと思う。

S.Groth:各国に歴史、慣行、宗教観があり、一律に規定することは困難だ。

高久:国際連合でこの問題を討議しようとする動きがあるが、反対だ。日本においては遺伝子医療、クローニングについては法律による議論ではなく、ガイドラインの策定とする過程をとってきた。この問題は政治的に討議するのではなく、科学的に討議すべきだ。

ドイツ:クローニングについては、現時点では研究、実験段階であることを認識すべきだ。医師としての最低限の倫理観からすれば、これを軽々に臨床現場に応用すべきではない。むしろこの問題は国連の場で議論すべきである。

ベルギー:議論を伺って吃驚している。倫理的な議論が十分に行われ、結論が出ていない現状で治療的クローニングを許すとか許さないとかいう認識は疑問に思う。

高久:確かに治療的クローニングについては実験的な段階だが、むしろそうだからこそ今から一律に禁止するのではなく、研究を続けながら議論をすべきと思う。効果のある治療方法がない患者と直面する医師にとって、可能な治療方法の開発は義務であろう。

 

日医会長講演:「今、医療に求められるもの」

植松 治雄 日本医師会長

 

医療に求められる最大のものは、医療の安全であり、質の高い医療の提供である。

 

医学、医療技術の進歩により、患者に負担をかけることの少ない手術手技や、治療方法が開発され、今後の進歩も必定であるが、安全の視点を中心に置くべきである。一方では、遺伝子治療、再生医療のような新しい医療が脚光を浴び、急速な進歩を続けている。しかしながら、この分野では、生殖医療において多くの問題が提起されているように、生命倫理という重大な課題を抱えている。ひとり医学のみで解釈できる問題ではなく、宗教・哲学など各方面の英智を集め、極めで慎重に検討しなければならない。

 

医療の進歩と共に、医療が細分化、専門化して行くことは一つの趨勢である。しかしながら、医療が病める人を救うためにあることを考えると、病のみに着日した医療を行い、その人の幸せに思いが及ばないならば、良い医療を行ったとは言い得ない。病を持った一人の人のQOLを主眼においた医療、すなわち全人的医療こそが重要である。日本ではこの様な医療を「かかりつけ医」機能と呼んでいるが、プライマリ・ケアの原点はここにあるのではなかろうか。

 

医療提供体制としては、人びとが地域において安心して暮らせるプライマリ・ケアを中心に据え、病院はそれを支援し、補完するものとして位置づけ、病院の機能分担と連携により、設定された医療圏において、包括的地域医療体制を整備する必要がある。

 

安全で良質な医療を提供するには、当然ながら医療費財源が確保されなければならない。日本では、全国民を対象とした国民皆保険制度が約40年前から施行されているが、近年、医療費の増加と、国家財政の低迷により苦しい状態となりつつある。医療は消費ではなく、健康への投資であるとの認識と、国民の安心の源であることを訴えながら、医療費の財源を確保しなければならない。

 

地球レベルで考えるならば、世界各国の政治情勢も経済情況もそれぞれ違っており、保健・医療における問題も異なっているであろうと思われるが、WMAがそれを把握し、皆で考え協力していくことこそ、全人類の幸せのために医療に求められていることであろう。

 

テーマU:「ITの進歩と医療との調和」

 

1・「21世紀におけるITの進歩と医療との調和」

  開原 成允 国際医療福祉大学副学長

 

IT20世紀までは、医療機関の中で医療提供者に利用されてきた。21世紀のITの特徴は、社会の情報化に伴って、医療の提供者のみならず需要者にもその利用が広がり、このことが医療にも大きな影響を与えるようになったことである。

 

21世紀のITの進歩は、ITの個人化、高度情報通信技術、マルチメディア技術、巨大データベースで代表される。医療においては、パーソナルコンピュータとインターネットの普及により医療関係者も一般市民も瞬時に世界中から医療情報を入手できるようになった。またマルチメディア技術は、三次元画像などの新しい医学映像を創造し、更には通信手段と融合して遠隔地にいる患者を診療できるまでになった。

巨大データベース技術は、患者の生涯にわたる診療情報をデータベース化することを可能とし、また、最先端の医学文献などをデータベース化して提供している。

 

これらは個別に見るといずれも望ましいことである。しかし、その影響を受けて医療そのものが変化しつつあることも見逃してはならないし、また高度技術は負の側面も持つ。その変化は、次のようにまとめることができる。第一は、EBMの普及である。医療提供者の問での専門的医学知識の交換が容易になった結果として専門知識の科学的根拠が求められ、EBMの考え方が必要となった。しかし、治療法が科学化する一方で、医療が高額となって世界的に見たときに医療の恩恵を受けられない人が増加することは避けなければならないし、伝統医療を否定することになってはならない。第二は、医療の場の分散化である。これまでは医療資源を集中する必要があったが、情報社会においては情報と医療チームの組み合わせである程度の医療が在宅でも可能になりつつある。しかし、情報機器に依存しすぎて本来の人間的医療が忘れられてはならない。第三は、患者の主体的役割の増大(エンパワーメント)である。患者が情報を容易に得られるようになった結果として、患者が医療機関を選択し、治療法について医師と対等に討議できる可能性がでてきた。しかし、一方で、そのために医師と患者の信頼関係が崩れ、医療の訴訟が増加するとすればそれは医師・患者双方にとって不幸なことである。

 

21世紀の医療においては、情報化の恩恵を一方で享受しつつ、それを医療に調和させていく努力が今にもまして必要になるであろう。

 

 

フロアからの発言

 

某国:日本では患者の医療情報を扱うための医師のための指針はありますか。

開原:現在はありませんが、今後早急に必要になると思います。

 

2・「情報医学とゲノム科学によるヘルスケアの変化」

  Ju Han Kim 国立ソウル大学医学部情報医学助教授

 

バイオメディカルインフォマテイクスは生物医学研究で急速に台頭しつつある分野である。ゲノムとポストゲノムに関する大量のデータが氾濫しているが、これは生物医学研究における課題が、いまやコンピュテーショナル・サイエンス(計算科学)における課題となっていることを意味している。クリニカルインフォマテイクスは、実験と臨床の情報システムを統合することで生物医学研究と臨床ケアを向上させる方法を長年にわたって発展させてきた。バイオインフォマテイクスとクリニカルインフォマテイクスの両分野におけるインフォマテイクスの革新によって、診断、治療、および予後診断などの現在の医療は変貌し、ゲノム医療が開発されていくこととなるであろう。

 

ポストゲノムインフォマテイクスはコンピュータの高処理技術とゲノムスケールのデータベースによって可能となるが、それは一世代前に生化学が行ったのと非常に似た方法で我々の生物医学に関する理解を変えそうである。医学研究の広い分野とバイオテクノロジーの発達の仕方は、高処理技術と情報科学の発展によって恒久的な変化を受けるであろう。バイオチップ・テクノロジーは、生物医学と臨床医学にもっとも容易に適用できるバイオインフォマテイクス革新の一部である。このことは、ある種の癌は大規模遺伝子発現プロファイリングによって類別できるということで実証されている。予後診断予測のみならず新疾病種を発見できることもまた実証されている。創薬は分子細胞生物学とバイオインフォマテイクスの発展によって変わりつつある。

 

バイオチップ・テクノロジーの臨床医学における能力は驚異的であるが、この技術が本質的には、生物学的に極めて情報豊富な分子、遺伝子、およびタンパク質の包括的な集合体を対象とした何万もの分子マーカー研究を非常に体系的かつ定量的に同時にこなしていることを考えれば驚異的であるのも当然であろう。そうすることで、バイオチップ・テクノロジーは近代的診断法の基本事項である組織病理学プロセスの分子基礎を解明しているのである。

 

バイオインフォマテイクスは実験に取って代わるものではないが、実験過程の短縮化と自動化によって発見プロセスは驚くほど合理化し可能となっている。質のよい臨床情報を統合することは、臨床診断、治療法、および予後診断を真に改良するために極めて重要である。したがって、バイオインフォマテイクスは単に発見プロセスを支援するツールであるだけでなく、発見の不可欠な部分となって我々の生物

医学の知識構造を永遠に変えてしまうものである。

 

すべての生物学的構築ブロック(ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム、バイオーム)の水平統合「オミック」革命を、バイオメディカルインフォマテイクス{分子バイオインフォマテイクス、コンピュータ細胞生物学、コンピュータ生理学(ニューロインフォマテイクス)、デジタル・アナトミー(構造インフォマテイクス)、化学インフォマテイクス、クリニカルインフォマテイクス、公衆衛生インフォマテイクス}の垂直統合と組み合わせるための機は熟している。新しい医療は、分子情報に基づき、かつインフォマテイクスにより力を引き出されたものとなるであろう。

 

 

3・「情報化における医療情報とプライバシー」

  樋口 範雄 東京大学法学部教授

 

1        医療情報のとらえ方−2つの比喩の失敗

 

医療情報の保護と利用は重要な問題であるが、この間題に対する視座が確立していない。わが国の場合、医療情報についてモノの比喩とバランスの比喩を用いる場合が多い。しかし、いずれも成功していない。

 

まず、「医療情報は誰のモノか」という問いかけは有意義な結果をもたらさない。そもそも情報はモノではないし、誰かのモノにすると不都合な面が出てくる。同様に、「医療情報の保護と利用のバランスを図る」という言い方も、バランスを図る道具が明らかでないためそれ以上の探求が難しい。

 

したがって、これらの比喩に頼るのはやめて、一度原点に立ち返る必要がある。すなわち、そもそも医療情報はなぜ保護しなければならないか?

 

2 3つの視座

 

債権譲渡とそれに伴う信用情報の問題を例にとると、医療情報についても3つの視座が見えてくる。第1に、診療に関して患者の保護と患者の医療情報の保護を区別すること。第2に、医療情報の保護は、患者の保護・個人の人格の尊厳を回復する手段であること。第3に、医療情報保護の要請は、医療情報に基づく差別(保険や雇用など)や誤った情報流通による不利益へのおそれに由来するので、それに対処すべきこと。個人の情報コントロール権や「医療情報は患者のものだ」という比喩はそのための主張だが、同意原則中心のこれらの対処法は十分ではないのみならず、医療情報の特質を理解しないおそれがある。

 

3 利用と保護のための法的戦略

 

患者のための最善の医療、および社会全体にとって最善の医療という2つの目的を実現するためには、有益な医療情報の増加が必要であり、安心して医療情報を提供し集積する仕組みが必要である。

 

そのためには、医療情報に関するルールを明確に定め(透明性確保の原則)、明確になったルールが遵守され、違反を発見しやすくし(コンプライアンス確保の原則)、かつ故意の違反があった場合には厳しく制裁する(制裁確保の原則)という3つの条件を備えた仕組みを作る必要がある。

 

医療情報はモノ以上に重要な意義をもつ場合があり、利用と保護を対立するものと考えるべきでない。また、患者が自分の情報だからといって独占させてよいものでもない。したがって、医療情報の利用と保護を考えるには、目標を定め適切な手段を工夫した法的戦略を構築する必要がある。

 

10月8日(金)

特別講演:「医師の生涯教育とプロフェッショナルオートノミー」

  橋本 信也 日本医師会常任理事

 

専門職としての医師が、最新の医学知識や医療技術を絶え間なく研磨することは、医師に課せられた責務であり、同時にそれは医療の質の向上に繋がる。

 

W.Oslerは既に100年前に、「大学を卒業して5年、10年たった医師が、知的怠惰に陥らないよう医師会は卒後の教育を行わなければならない」と言っている(1903年、New Haven市医師会100周年記念講演)。

 

日本医師会では1984年に、医師の生涯教育を重要施策の一つとして取り上げ検討を始め、1987年に生涯教育制度を発足させた。この制度のもとに、全国47都道府県医師会は、全ての会員に向けて生涯教育活動を推進している。

 

1991年には「日医生涯教育カリキュラム」が策定され、カリキュラムに沿った生涯教育が行われている。このカリキュラムは、「医学的課題」と「医療的課題」から成る。医学的課題は、倫理、法律、経済、社会保障、福祉、地域医療、保健事業など、臨床医なら誰もが身につけておかねばならない事項を含んでいる。カリキュラムは常に見直されており、これまでに3回改定されている。

 

医師の生涯教育にとって難しいのは「教育評価」である。日本医師会では制度発足以来、自己申告制(自己評価)を採用しているが、これでは十分とは言えず、学習方法の多様化や社会からの要請に対応できるような評価法について現在検討を行っている。因みに自己申告率は、制度発足時、平均642%、2002年で696%である。

 

医師の生涯教育は、他人に言われて行うものでなく、本来、「内発的動機づけ、intrinsic motivation」によるべきものとされている。我々も、内発的動機づけを期待して生涯教育を行ったが、現実に自己申告率は増加しないことを経験した。

 

一方、近年、医療事故の報道が相次ぎ医療に対する不信、不安が社会問題として取り上げられている。「医療事故防止」、「患者安全確保」、「医療の質の向上」という三つのキーワードの要に位置するのは、生涯教育の推進であると考える。

 

このような時、我々は1987年のWMAMadrid宣言「Professional Autonomy and SelfRegulation」を改めて考えたい。

 

専門職としての医師は、自分たちでメンバーを教育し合い、自主的に運営していくという意味で、自律的、autonomicである。プロフェッションの本質は、自律性、Autonomyにあると言える。「人間の意思は、善意思(道徳律)として働く時に自律的である」と言ったカントの言葉(実践理性批判)に想いを馳せながら、医師の生涯教育を推進して行きたいと考える。

 

 

パネルディスカッション:「情報化社会における先端医療と医の倫理」

座長:Sir David Carter(イギリス医師会)

パネリスト:Henry Haddad、Steffen Groth、開原 成允、Ju Han Kim、

樋口 範雄

 

座長:昨日から医療における情報化、先端医療と倫理、プライバシー、医療の安全の問題について、また今日はプロフェッショナルオートノミーについて講演を頂き、さらに議論をしてきた。これからは、もう少し突っ込んだ議論を重ねていただきたい。

H.Haddad:医療システム全般について誰がコストを負担するのかが問題だ。豊かな国であっても無制限にコストをかけることは不可能だ。現在は政府が決定していることが多いと思われるが、患者、医師、医療関係者、国民が介入することが重要だ。4つのEを強調したい。EvidenceEthicsEducationEnvironmentである。

オーストラリア:医療コストが新しい分野と救急の分野に投入されすぎている。配分と均衡について考える必要がある。新しいテクノロジーを医療保険に入れる場合は、費用対効果比を十分に討議しなければならない。

アメリカ:アメリカはGDP14%の医療費を使っているがうまくいっていない。医療費のコントロールには、もっと医師の決定権を導入すべきだが医師の資質の管理が問題となる。

イギリス:医療資源の配分が大切だと言うだけなら簡単なことだ。先端医療への期待と適応の希望が患者側から強くある。イギリスのNational Health Serviceで問題になっているのは政治家が有権者の立場を強く意識して、やみくもに先端医療を保険適応にしようとして困っている。

タイ:途上国では医療資源の限界が低レベルだ。患者の権利を考慮しつつも全ての患者に良質な医療を提供できない。このような途上国の問題を忘れないでほしい。

座長:どのような分野に医療資源を集中させるかの決定には、患者の関与が欠かせない。

S.Groth:プライオリティの順位付けが必要だ。そして何よりも医療へのアクセスが根本だ。プライマリーケアシステムの在り方についてはWHOも重大な関心を寄せている。また人口の高齢化は先進諸国だけの問題ではない。途上国にも高齢化問題は深刻だ。

開原:プライオリティのことだが、日本では医療保険と介護保険を分離した。扱う分野で異なった態度での順位付けが必要ではないだろうか。

座長:患者の声に耳を傾けること。患者は十分な情報を持っていないこと。マスコミが世論を作ってしまうこと。プライマリーケアの視点が弱くなっていることなどが議論されたと思う。日本の高度先進医療制度も先端技術の理念無き導入の一種の歯止めになっているように感じた。

南アフリカ:南アフリカでは失業率が40%、医療費の対GDP比は8%、一方日本では失業率が5%以下で医療費は7%ですが、何か失業率と医療費の対GDP比には関連はありますか?

座長:国によってGDPの大きさが余りに異なっているのでは比較にはならないと思う。

J.Kim:アクセスの平等が一番大切なポイント。情報が独占されると限界のある配分になる。ITの進歩がアクセスの平等化に寄与できないかと考える。

H.Haddad:カナダではプライオリティは政府が決定する。医療のコアに重点的に資源を配分することが大切だ。「屋根に穴が開いているときに新しい家具(先端医療)を買うでしょうか」

米国:米国はGDP14%もの医療費がかかっているがうまくいっていないのはご存知のとおりだ。アクセスが一番の根本だ。アクセスさえあれば、後は市場が決める。後は自由選択で良いというのが私の主張だ。

S.Groth:日本では政府がかなり規制している印象だ。基本的には現場を知る医師が、患者の無制限な希望を、学的な根拠を示して抑制すべき点は抑制していただくように努力する必要がある。

座長:医療の安全性の問題も大きなテーマだが、罰則や自律性についての議論は如何でしょうか。

米国:医療過誤と悪意、意図的な重過失とは全く異なるものであることを再確認したい。過誤はシステムの問題であって、理性・個性の問題ではないことを明確にしておきたい。航空機事故後の対策については、その後も多くの人が搭乗していただける環境作りが底辺にあった。医療は航空機搭乗以上に不可欠なものであるのだから、この経験は医療にも生かすことができるはずだ。報告することが大切で、報告することで罰せされる社会環境が問題だ。

座長:医療事故・過誤の問題においては公衆・マスコミは犯した人を罰することで決着をつけたいとする傾向がある。これは誤りだ。

H.Haddad:患者の安全確保は最重点課題だ。カナダでもMRSAで多くの尊い人命を失った苦い過去がある。

J.Kim:これはシステムエラーであり、個人の問題でないことを明確にすべきだ。そしてそのことを司法、国民にも理解していただく必要がある。これからは医療分野のシステムエラーを如何にして見つけていくか、そして改善していくかが重要だ。

開原:いろいろなシステムがあるが、事例の収集をしていても解決にはならない。現場に如何にフィードバックするかだ。

樋口:日本では過誤の申告をすることが恥であるという文化が根強くある。そうではなく、過誤、事故を減少させるためには過誤の報告をすることが大切なのだという、意識の転換をおこなっている渦中にあるところだ。

カナダ:公共の意識も誰かを悪人として終わりとするところがある。そうではないのだということを国民に知っていただくためにもWMAの指導力に期待したい。

英国:国立安全患者庁を設置して、匿名での報告を収集し、システムエラーの改善を図っているところだが、英国でも特定の個人を批判する傾向があって困っている。

南アフリカ:医師の過重な労働時間の改善についてもイニシアティブをとっていただきたい。

座長:欧州でも医師の労働時間は問題になっている。現在のような週80時間という労働時間では医療の安全を図るという観点からも論外だ。

フィンランド:医療事故・医療過誤の被害にあった患者に対する保障についても考える必要があるのではないか。

座長:先端医療が持つ諸問題についてはかなり議論された。医療事故・医療過誤をゼロにすることは不可能だが、どうしたら少なくできるかの方策を具体的に考えなくてはならない。遺伝子診断にしても、診断してその後どうするのかが分からないまま、やみくもに診断技術が先行し、患者がいたずらに混乱している。さらに保険料や就職、結婚といった問題に新たな差別が生まれつつある現状は深刻である。Infomaticsの立場からご意見はありませんか。

J.Kim:医療情報は飛躍的に増加しており、この膨大な情報を解析する新しい科学によって診断能力も驚くほどの進化を遂げつつある。しかし、なおのこと患者は本能的な恐怖感を感じている。一番の問題はゲノム情報によって個人を全く特定できるようになったことだ。今までのプライバシーの概念は完全に葬り去られた。しかし、それでよいのか。新しいルール作りが必要だ。

台湾:最近の情報はコンピュータに入力してから3分後には世界中に拡大する。一方これに対するセキュリティ構築には最低5分はかかる。このように情報には世界中に拡散するという本質的な性質がある。しかし、医師と患者との関係はこのような情報技術の進歩とは基本的に異なる側面も持つ。大切なことは、情報に振り回されるのではなく、本質を如何に見極めるかを掴み取る能力の養成であり、このためには若い医学生が医学部に入学する前の関門を高くするのが良い方策かと思う。

H.Haddad:医学生の心の準備が出来ていないことを痛感している。ゲノムについても技術が先行して、人々の心の準備が出来ていない。ゲノムの問題は次世代の最大の人権問題だ。

英国:医師は新しい玩具が好きだ。患者も好きだ。問題は治療法が出来ないうちに情報が出てしまうことにある。煙草が健康を害することが立証されて50年経過したが、それでも完全な禁煙はできていない。もっと生活習慣の改善や、一時的な疾病予防に力を注ぐべきである。テクノロジーへの過依存が問題だ。

樋口:日本では「個人情報保護法」が制定され、2005年に施行されることになっており、医療関連のガイドライン作りを急いでいるところだ。医療情報と遺伝子情報を区別すべきだという意見もある。ご示唆があれば伺いたい。

日本:色覚異常の問題があった。これもある種の検査が個人を差別した貴重な経験だ。人を全人的にみる観点が欠かせない。

座長:約20%の患者が自分の医療情報を公開されたくないと思っている、という調査結果がある。保険加入の問題もある。たとえば遺伝子検査を受けた結果、何がしかの疾病に罹患する可能性が高いということになり、その結果、その個人の保険料が高額になった場合のリスクは、その個人が負うべきでしょうか。

 一方、プライオリティの順番や、保険の話だけになってしまうのも問題かもしれない。

座長:アイスランド国民の遺伝子情報が一企業に独占されるということがあった。医師はデータベースの守護者となるべきだ。これらの問題に関するWMA勧告をアップデートすることが重要だ。

J.Kim:すべての情報が急速にデジタル化される流れを止めることは不可能だが、この情報の中で、人類共通の情報は開示され研究に使われるべきだが、個々人の情報は別に扱われることで解決できないだろうか。

米国:アメリカ医師会でもその問題についてはかなり議論した。このことについてはインターネットで公開しているのでアメリカ医師会ホームページを見ていただきたい。

米国:ゲノム情報の公開を禁止する法案が度々上程され、その都度議会で廃案になっている。保険会社のロビー活動のためであり、米国では大きな問題となっている。

オーストラリア:精神面・倫理面の問題と法律面の問題の両面で検討することが大切である。情報は医師と患者との間のPrivate Data であることを再確認する必要がある。

南アフリカ:情報が患者にとって不利になってしまうのでは全く無意味だ。情報を知りたくない権利も再確認すべきだ。

開原:まだ討議されていない問題として、遺伝子に関する臨床研究の問題がある。研究情報と医療情報とは区別して議論したほうが良いのではないか。

H.Haddad:生命コードはあくまでプライバシーコードだ。だからこそ保険会社が欲しがり、製薬会社も欲しがる。

S.Groth:繰り返すが医療資源の配分が最優先だ。また来年のWHO総会でe-health戦略が発表されると思うが、このなかで伝統的なカルテの公開についても触れられると思っている。あくまで国際人権宣言に基づいたものにならなければならない。

樋口:遺伝子情報と他の医療情報とを区別できるだろうか。私はきわめて困難だと思う。

座長:時間が来たので少しまとめてみたい。まず医療資源配分の優先順位について討議された。遺伝子情報とその取り扱いについても議論された。先端医療についての医の倫理について、ガイドラインをアップデートしなければならないと考える。各国では抱える問題も様々だが、意識改革を行い、さらに医の原点に立ち返ってWMAとして何をやっていくべきかの方向性が出てきたように感じた。長時間の議論に感謝する。

 

10月9日(土)

総会式典

 

挨拶

James Appleyard WMA会長

植松 治雄 日医会長

 

祝辞

細田 博之内閣官房長官

  WMAのこれまでの活動に敬意を表する。わが国の平均寿命、乳幼児死亡率は世界的水準に達した。少子高齢化の急速な進展から、より質の高い医療の提供や、安全な医療の提供が求められている。今回のWMAのテーマは真に時宜を得たものであり。世界人類のより良い福祉のために、WMAがこれからも世界の人々から信頼を受けている団体として一層の発展を遂げられますようにお祈りいたします。

 

尾辻 秀久厚生労働大臣

  WMAの発展の歴史はそのまま世界の医療の発展の歴史であります。わが国でも世界でも最も高水準の医療を享受できる状況となっている。本総会の開催に尽力された日本医師会に敬意を表します。

 

石原 慎太郎東京都知事

  一つの奇妙とも思われるお願いをしたい。いわゆる医学は日本では西洋医学と呼ばれる。一方で東洋医学も存在する。決してシャーマニックなものでなく、きちんとした体系を持つものである。たとえば逆子を足のツボのハリで治すという事実もある。一種の整体術と気孔を使って錐体外路系が賦活化されることは自分で経験した。

  今日、文明が進み世界が近くなっている今日、東洋医学と西洋医学が融合してほしいと願う。

  物事の概念機構ほど本質を捻じ曲げることがあると考えられる。西洋医学のみが科学的であると決め付けることの無いよう、どうか、そういった点についても柔軟にお考え頂きますようお願いする世界医師会が東京で開催されたことを好機としてお話させていただいた。

 

Yoram.Blachar WMA理事会議長

 James Appleyard 会長のこの一年間のお働き、子ども達のための新しいシステム、ヘルシンキ宣言の改定などに対して常に公正で、暖かい心遣いの中で実行なさったことに対して感謝申し上げる。

 

退任挨拶

James Appleyard 前WMA会長

  医師同士の連携と友愛はとても大切である。世界看護連盟、世界製薬協会ともジュネーブで会合を持てたことは幸せであった。 

WMAは世界の社会不正と戦っていくべきであり、これは医師の崇高な使命である。開発途上国の医学生の勉学の機会を増すことにも心を注ぐべきである。多くのプロジェクト、5歳以下の子どもの死亡率を3分の1に抑えるプロジェクトなどである。これらのプロジェクトは、かならずしも十分にその成果を獲得しているとはいえないが、今後もWMAとして貢献していくつもりである。多くの発展途上国の医療の現況に、われわれはより多くの人的、物的貢献をなすべきである。

イラクで悲惨な戦争が行われた。ここには様々な理由があるとしてもWMAとしてはイラクの医師を支え応援することによってイラクの人々の命を守らねばならない。

  拷問防止のための世界的な協同については一定の進歩が得られたと思っている。

  プロッフェションについて、医の倫理について、最高水準のケアの実現について、世界中の医師の協同の中で、患者の権利を守り、より良い世界を築いていく努力を続けて行きましょう。

 

新任会長宣誓

 Yank D.Cobel 新WMA会長

  定款と細則を守り、医の倫理のもとに、特にジュネーブ宣言を守り、全ての人に最高水準の医療が提供され、医療提供者の名誉が守られるように全力を尽くすことを誓います。

 

新会長挨拶

   医師には、深い思いを持ってケアをし、倫理を守り、患者の代弁者として声をあげることが求められている。いま大切なことは国を富ませることではなく、国を健康にすることである。

  新しい感染症の問題もある、よりよいヘルスケアを人々に提供していかなければなりません。SARS2ヶ月実態を公表しなかったということがある国でありました。しかし、この国では医師が世論を高め、世界にその情報をひろめたのであります。そのことによってSARSによる死者は大きく減少させることができたのです。国の仕組みや経済の状況は様々であり、変化し続けます。しかし。医師の使命に変わりはありません。常に患者のことを考え、医師の崇高な使命を考えて行動することが重要なのであります。

  まず、患者、高齢者を考えよということであります。一番、私たち医師を必要としている方たちのためにこそ、行動することが私たちの義務であります。

 倫理は一人一人の医師のものだけではなく、医師の集団である各国医師会、またWMAのものであります。

  また、私たちが職業によって知りうる情報を、患者に、マスコミに、政府に知らせなければなりません。

  良いことをしよう、善行をしよう、オプティミスティックに行動しましょう。

 世界では、まだまだ、不健康があり、拷問があり、不平等、差別があります。これらの現実にしっかり目を向けて、私たちの意志と行動を発信続けていきましょう。

  WMAは倫理の灯台であります。より良い健康をあまねく、という理想を現実のものとするために、力をあわせましょう。

 

全体会議

1・開会宣言

2・挨拶・報告事項

3・資格審査委員会報告

4・WMA議事規則採択

5・20039月ヘルシンキで開催された総会議事録の承認

6・20052006年度会長選挙

 Kgosi.Letlape 南アフリカ に決定した。(19594月生まれ47歳!)

 次期会長挨拶

 「平均寿命59歳の国ですから、まだ若いのですが若すぎると思わないでください。限られた医療資源の問題に懸命に取り組んでまいります」

7・2004WMA東京総会への理事会報告

7・1−医の倫理委員会報告:J.Snaedal委員長

7・1・1−ヘルシンキ宣言第30項目の内容の明確化のための注釈

71票の賛成で可決・2票の反対(ノルウェー医師会)

7・1・2−医師と企業の関係に関するWMA声明案

76票の賛成で可決

(医の倫理に関する規定には3分の2の賛成が必要)

7・2−社会医学委員会報告:H.Haddad委員長

7・2・1−水と医療に関するWMA声明案

(オーストラリア医師会から自国の事情について説明があった)

7・2・2−武力紛争時の医の倫理に関するWMA決議案

7・2・3−医学教育の質向上のためのWFME世界基準に関するWMA決議

7・2・4−医療上の緊急時における連絡および調整に関するWMA声明案

7・3−財務企画委員会報告:J.Nelson委員長

7・3・1−ベトナム医師会会員申請

7・3・2−エストニア医師会会員申請

以上はいずれも可決された

7・4−財務報告:K.Vilmar財務担当役員

7・4・1−2003年財務報告

日本は196000ユーロと最大の拠出国、続いてドイツ18万ユーロ、USA171000、英国92000、ロシア9万、カナダ54000、スウェーデン38000、更にオーストラリア、オランダ、ノルウェイ、スイス、フランス、デンマーク、フィンランドと続いている。(拠出額は全体で1079000ユーロ)

Q:スポンサーについて厳格でなければならないし、でなければ透明とはいえない。WMAの活動にいささかでも影響を受けるということがあってはならないからだ。

A:現在スポンサーとしてファイザー社とジョンソン&ジョンソン社の2社がある。

本来は会費で全てを補うべきだと思っていますが、郵送費、広報費などで受けざるを得ない場合があることも現実だ。

7・5−その他報告:Y.Blachar理事会議長

8・2004年準会員会議報告

9・WMA“公開会議”

座長 Yank D.Cobel 新WMA会長

ドイツ:千足のわらじを履きつぶすという新会長のお話がありました。お忙しいと思いますが、現在、女医の数と活躍が目立ちません。女医のとりこみ足りないといわざるを得ません。女医問題についても積極的に関与し、女医の力をWMAに結集することに尽力頂きたい。

 マレーシア:今朝のスピーチで東京都知事の東洋医学に対する言及がありましたが、問題点があると感じた。東洋医学の科学性についてWMAがきちんとした対応をとるべきである。

座長:WMAとしても東洋医学・伝統医学に対する声明を出すべきだとも思います。そのためにも科学的な検証をまず正確に厳格に行うべきだと考えます。

マレーシア:こういった代替医学が社会全体に大きな影響を及ぼしている。WMAが明確な対応をすべきである。

オーストラリア:伝統医学、メディカルボードから取り下げられたという現実もある。

ガーナ:医学生レベルでの交流について積極的に対応していただきたい。ガーナでは医師の国外流出が社会問題になっている。

USA:一週間に80時間にも及ぶ医師の過重労働についても検討頂きたい。

トルコ:トルコ、リビアの医師の問題で危機的な状況がある。当該医師、看護師に対して国際法に適合した扱いがなされるようにWMAとしても声明を出していただきたい。

香港:香港において東洋医学は代替医療ではありません。医療において大きな役割を占めている。そのような仕事をしているものを認めるかという問題。東洋医学の科学的な根拠に対する正確で科学的に厳正な評価が必要である。

英国(Appleyard):若い医学生だけではなく、リフレッシュコースも含めて医師全体の資質向上にWMAとして考えなくてはならない。

フロア(IOCD):デンマークを基盤として、拷問に関する仕事をしております。何人かの医師が拷問に関わったということがLansetに掲載されましたが、氷山の一角と思っている。WMAとして何かできるのでしょうか。WMAとして積極的な調査を行っていただきたい。

Appleyard前会長:既に数カ国を訪問し調査を行ってきた。今後も各国政府に対しても申し入れを行ってきたい。

IMO:トルコの話があったのですが、EUに対しても情報を提供すべきではないか。

伝統医療のことですが、これは認められるということで南アフリカでは法律が決定したところです。限られた資源の活用の問題、伝統、国民の慣行、意識など多くの問題があって、難しいところだ。

タイ:代替医療のことですが、全く頭の痛いことである。患者の観点からすると選択の余地があるということで、そういったニーズもある。ここで当面の現実的な対応としては、可能な範囲で科学的な規制をかけたなかで部分的に認めるということであります。

藤村(日本):今朝の都知事の意見は、あくまでも一個人としての意見であって、日本において主流的な意見でないことをご承知頂きたい。私たちとしては、東洋医学に対して科学的に検証し、エビデンスがあれば認めるということであって、頭から反対するということであっては科学者の取るべき態度ではないと思います。

 座長:東洋医学・代替医療についてもWMAとしても何らかの対応が必要なようですね。マレーシア医師会でもご検討ください。

10・2005WMA総会の日程・場所

 2005101215日、サンチエゴ、チリ

11・その他

12・閉会